第5回新BI勉強会
「ヒトの運動学習や言語獲得の神経基盤とその計算論的理解」

共催:
  • 21世紀COEプログラム「動的機能機械システムの数理モデルと設計論」
  • 特定領域「身体・脳・環境の相互作用による適応的運動機能の発現」
日時: 2006年11月29日(水) 15:00〜18:00 (講演会後に懇親会)
場所: 京都大学 物理系校舎3F 314室

プログラム

15:00〜15:15 挨拶
15:15〜16:30 講演1:「言語を学習するロボット
岩橋直人 先生(ATR 音声言語コミュニケーション研究所)
16:45〜18:00 講演2:「数理/計算論的神経科学(理論統合脳科学)の研究から
中原裕之 先生(理化学研究所 脳科学総合センター)
18:30〜 懇親会
会場:吉田南構内 生協吉田食堂 2階リザーブルーム

講演要旨

「言語を学習するロボット」

岩橋直人 (ATR 音声言語コミュニケーション研究所)

ロボットが,人と日常生活の共有経験を反映する対話を行うための計算機構の構築を目的として,人とのインタラクションを通して言語コミュニケーション能力を学習するロボットを作成した.環境(物理的な周囲の世界)から必要な情報を引き出し状況に応じて適応的な処理を行うロボットは,近い将来に我々の日常生活を支援してくれる身近な存在になるであろう.日常生活で経験を共有する,このようなロボットとの自然な言語コミュニケーションが望まれる.一般に,日常生活の経験は強く状況に依存し,共有経験を反映する言語コミュニケーションは,対話者による環境の理解と,対話者間の相互理解を基盤として成立する.ところが,従来の言語処理技術では,あらかじめ与えられた固定的な閉じた記号系の中で意味が定義されているため,経験を適切に表現できず,このような言語コミュニケーションは実現できない.

そこで,環境の理解,対話者との相互理解,発話生成・理解の各機能とこれらの相互作用からなる言語コミュニケーション能力を,人とのインタラクションを通してロボット自身が学習するための情報論的計算機構を,グラフィカルモデルを用いて構築した.感覚運動情報を基盤にしたさまざまな認知機能間の相互作用の総体としての言語コミュニケーション能力を,人と環境との相互作用で変化する開放系として,数理モデル化したことが特徴である.

構築した計算機構により,ロボットは,音韻,単語,文法,物体と動作のカテゴリー,タスクに関する知識,語用論的知識など,言語コミュニケーション能力を構成する要素(信念)をインクリメンタルに獲得し,それらを一つの信念システムとして統合してゆく.さらに,ロボットは,この信念システムに基づいた発話の生成と理解のプロセスを通して,対話者の信念システムの状態を推測し,自らの信念システムを修正する.ロボットと対話者は,互いにこのような調整を続けること(信念システム間のダイナミックな結合)により,状況に応じて適切に発話を生成・理解し,行動できるようになる.

「数理/計算論的神経科学(理論統合脳科学)の研究から」

中原裕之 (理化学研究所 脳科学総合センター・理論統合脳科学研究チーム)

端的に述べると,私たちは,脳のメカニズムの解明には,脳の多様な階層性を横断しつつその数理的理解を深めることが必要不可欠と考えています(研究室概要は http://www.itn.brain.riken.jp ).講演では,(1)大脳皮質―大脳基底核回路を中心とした運動系列の学習・制御,及び報酬獲得などの動機付け行動の発現,(2)神経細胞集団の機能を考えていくための数理的手法(例:情報幾何の適用),の話題について私たちの研究を紹介します.


京都大学大学院 工学研究科 機械理工学専攻 マイクロエンジニアリング専攻 航空宇宙工学専攻
情報学研究科 複雑系科学専攻
京都大学 国際融合創造センター
拠点リーダー 土屋和雄(工学研究科・航空宇宙工学専攻)
本拠点に関するお問合せは 拠点事務局 まで