2004年のグラフェン薄膜の簡便な作製と大きな電界効果移動度の報告以来、グラフェン物性の研究は正に爆発的とも言える勢いで広がっている。これまでに室温に至る量子ホール効果の発現や超伝導近接効果の観測など電子伝導における多くのエポックメイキングな研究成果が報告されている一方、電子のもう1つの属性であるスピン伝導に関する研究は皆無であり、次なる処女峰として注目を浴びつつあった。
我々は2004年以来、分子スピントロニクスの研究を行っているが、従来のこの分野の研究における低い信頼性・再現性という問題を根本的に解決し、C60、ルブレン、Alq3などのπ電子分子系を介したスピン依存伝導現象の観測を十分な信頼性の下に報告し世界初の室温磁気抵抗効果の観測にも成功している。しかしながらこれらの分子系へのスピン注入は今尚容易ではない。これは分子のキャリア数の少なさによる伝導度ミスマッチ問題に起因として理解できる。そこで今回グラフェン薄膜という比較的伝導度の良い分子を用いることで室温におけるスピン依存伝導現象の発現をスピンカレントの観測という手法を用いることで世界に先駆けて成功したので詳細を報告したい。また本講演ではグラフェン物性の基礎も簡単に紹介することでこれからグラフェン研究を始めたい方々へのイントロとなるようにしたい。
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